龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】

「ちょっと話して来る」

松本さんは、長谷川くんの方へ歩いて行った。


「待ってる?」

悟くんがわたしに言った。


「うん。その方がいいと思う」


「おはよう。メール見てくれた?」

松本さんが穏やかな声で長谷川くんに言う。


「見たよ」

長谷川くんの方は喧嘩腰だ。

「あんな早くに家出て今頃来るなんて、どこで何してたんだよ」


「今日は君を避けてたの。でも、卑怯だった。はっきり言うね。毎朝迎えに来てほしくないの」

松本さんは、顔を上げて真っ直ぐに長谷川くんを見た。


「どうして? 俺、何か気に障ることした?」

「そうじゃなくて、普通に登校して、普通に会ったら『おはよう』って言える関係でいたいの」

「それじゃ、ほとんど会えない。最近は図書室にも来てくれないし」

「いつもベッタリ一緒にいたら、付き合っているのと変わらないでしょ。じゃあね」

松本さんは手を振って歩き出した。


「加奈? 待って、加奈!」

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