龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
親父が帰った後も、わたしは何となく気恥ずかしくて圭吾さんと距離を置いていた。

圭吾さんは何も言わないけれど、ずっとわたしを目で追っているのが分かる。

観察されてるみたい

どうしよう――って、もう!

何ビビってるのよ

相手は圭吾さんなのよ

落ち着いて、落ち着いて……


「ねぇ」

隣で夕食を食べていた圭吾さんがボソッと口を開いた。


なぁに?


「『後で』っていつ?」


うわぁん

本当にまずい気がする。


「圭吾さん、お仕事ないの?」

「君が帰って来るのに? 今日は予定を空けておいたよ」

「お、お、お、お風呂入った後でいい?」


言ってから舌を噛み切りたくなった。

お風呂に入っちゃったら、もしもの時に逃げる口実がないじゃないっ!

っていうか、『もしもの時』って何考えてるの、わたし!


「お風呂ねぇ……長湯し過ぎて伸びるんじゃないよ」

狼狽しきってるわたしを楽しそうに眺めて、圭吾さんが言った。

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