龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
涙がアイスクリームの上に落ちた。


圭吾さんはいつでもわたしを思ってくれるのに、わたしの方はちゃんと圭吾さんに向き合っていない。


ドライヤーの音がしていてよかった。

鼻がぐずついてカッコ悪いもの。


わたしは目をしばたいて、必死に涙を払おうと頑張った。

アイスクリームを飲み込む度に喉の少し下が痛む。


やがてドライヤーの音が止んで、圭吾さんはブラシでわたしの髪を梳かした。


「終わった?」

何か言わなきゃと思ったわたしの言葉は、不自然に明るくなってしまった。

圭吾さんの手がピタッと止まった。


あ……まずい


左手がいきなり伸びてきて、わたしの頬を確かめた。

悪態をつく声がして、ブラシが床に落ちる。

気がついた時には、わたしは両脇を抱え上げられて、両手にアイスクリームのカップとスプーンを持ったままという何とも間が抜けた格好で、圭吾さんの膝の上に座らせられていた。


「泣かせるつもりじゃなかった」

圭吾さんは悔やむように言うと、いきなりわたしの唇を奪った。


ちょっと待って!

持ってるアイスクリーム、どうすればいいの?

< 36 / 125 >

この作品をシェア

pagetop