龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】

家に帰ると、圭吾さんは留守だった。

圭吾さんはいつも、わたしの帰宅時間には家にいることが多いので、ちょっと拍子抜け。


まっ いいか

留守の方が都合がいい



「お帰りになったらアトリエの方においで下さいと、彩名様が」

わたしを玄関で出迎えた和子さんが言った。


「分かりました。その前にお手伝いさんたちにちょっとお願いがあるの」


わたしがそう言うと、和子さんは『また小腹がおすきになっているのですか?』って、


失礼ね!

そんなにいつもいつも空腹じゃないわよ

そう言われても仕方ない時も確かにあるけど……


「そうじゃないの。お菓子の作り方を教えてほしいのよ」


「お菓子? でございますか?」


そうよ


和子さんよりはるかに若いお手伝いさん達に言うと、

「バレンタインデーですか?」

って、すぐに分かってもらえた。


「あんまり甘くないのがいいの」

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