龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
カウンターには先客がいて、若い女の人がカウンターに並べられた色とりどりのメイクアップ化粧品を選んでいる。

椅子に座っている女性の後ろには、背の高い男性。

いかにも手持ち無沙汰な感じで、女性が『この色どう?』ってきく度に、『ああ、いいね』と判で押したように答えている。

飽き飽きしてるのに気が付かないのかな?

それとも、飽き飽きしていても構わないとか?

ん? あれって――


「常盤さん?」


わたしの声に振り向いたのは、やはり常盤さんだった。


「やあ、また会ったね。先日は大変お世話になりました」

「どういたしまして」


悟くんがわたしの腕を軽く引っ張った。


「ねえ、誰?」

「常盤道隆さん。代議士の常盤先生の秘書の方よ」

「ああ、分かった。圭吾の知り合いか」


常盤さんは悟くんをまじまじと見た。


「君も羽竜家の?」

「僕は悟。分家の四男坊。しづ姫の守役だよ」


常盤さんは戸惑ったように目をパチパチさせた。

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