龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
圭吾さんが思い当たると言った女性――恵(めぐみ)さんは、数年前まで常盤さんのお父さんの秘書をしていた女性で、常盤さんを弟のように可愛がっていたという。


「故郷で縁談があって事務所を辞めたんだ。円満退社だと聞いてるし、常盤と恋仲だったわけでもない。年が違いすぎる」


「世迷い言を言うなよ」

悟くんが言う。

「恋に年齢も性別も関係ない。当事者同士にしか分からない何かがあるんだろ。そうじゃなきゃ、生霊になるほど思い詰めないって」


「呼び出すか。気は進まないが、このままって訳にも行かないしな」

圭吾さんはわたしから手を離した。

「お嬢さん達はどこかでお茶でも飲んでいるといい」


あっ 子供扱いしたわね

プッとふくれたわたしの腕を亜由美が引っ張った。

「はいはい、志鶴はこっちへ来る。邪魔しちゃダメよ」

う……亜由美まで


「悟、僕が呼び出したらすぐに結界を張れ。今度は逃がすなよ」

「了解」


圭吾さんがパシッと手を打った。


「早くいこ」

美幸がみんなを急かすようにしながら歩き出した。

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