龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
「わたしにはもう見えないけど、恵さんはいる?」
「常盤の横を歩いてる」
圭吾さんはそう言ってから、わたしの目の前に右手を差し出した。
手の平に小さな赤い花が乗っている。
お正月に神社でもらった神様の花と同じだ。
「せめて彼等の行く末に花を贈ろう」
圭吾さんが花にフッと息を吹き掛け、『舞え』と言う。
花は圭吾さんの手の平から吹き抜けの高い天井まで昇り、そこから無数の花びらになって舞い落ちた。
「きれい」
美幸が上を見上げてつぶやく。
小さな赤いハートのような花びらが空中で消えると、後には春を約束するような匂いが残った。
「梅だね」
悟くんが言った。
圭吾さんがうなずく。
「紅梅は、高潔、忠実、忍耐を意味する――それと、隠れた恋心も」
「わたし、ずっとお子様の恋でいいわ」
わたしは圭吾さんの肩に頭を預けて言った。
「ただ好きって気持ちだけでいられるもの」
「いつまでもそれでは、僕が困る」
圭吾さんがぼやくように呟いた。
「常盤の横を歩いてる」
圭吾さんはそう言ってから、わたしの目の前に右手を差し出した。
手の平に小さな赤い花が乗っている。
お正月に神社でもらった神様の花と同じだ。
「せめて彼等の行く末に花を贈ろう」
圭吾さんが花にフッと息を吹き掛け、『舞え』と言う。
花は圭吾さんの手の平から吹き抜けの高い天井まで昇り、そこから無数の花びらになって舞い落ちた。
「きれい」
美幸が上を見上げてつぶやく。
小さな赤いハートのような花びらが空中で消えると、後には春を約束するような匂いが残った。
「梅だね」
悟くんが言った。
圭吾さんがうなずく。
「紅梅は、高潔、忠実、忍耐を意味する――それと、隠れた恋心も」
「わたし、ずっとお子様の恋でいいわ」
わたしは圭吾さんの肩に頭を預けて言った。
「ただ好きって気持ちだけでいられるもの」
「いつまでもそれでは、僕が困る」
圭吾さんがぼやくように呟いた。