龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
「いいや。お前をちゃんと育てると、ママの亡骸(なきがら)に誓ったからだ。成人するまでは父さんの娘でいてほしい」


「なぁんだ」

わたしはホッとして言った。

「ラーメン、醤油味で頼んじゃうからね」


親父はうなずいた。

わたしは携帯電話を取り出して、近くのラーメン屋さんに出前を頼んだ。


「本音を言えば、お隣りの航太君みたいな同じ年頃の、ごく普通の男の子と恋をしてもらいたかったよ」

わたしが電話を切ると、親父がぽつんと言った。


航太みたいなの? 無茶言わないでよ。

口は悪いし、乱暴だし、絶対につきあいたくない。

まあ、悪い奴じゃないけど


「圭吾さんのどこが悪いの?」

「悪くはないよ。きっとお前を大切にしてくれるだろう」


でも――って聞こえるのはわたしの気のせい?


「わたし、親父から見れば頼りないかもしれないけど、自分の気持ちくらい分かってる。圭吾さんといたいの」


だって、羽竜の家はわたしが見つけた居場所だもの。

他の男の子は、わたしじゃなくたっていい。

でも、圭吾さんにはわたしが必要なのよ。

< 9 / 125 >

この作品をシェア

pagetop