君とこんぺいとう
キッチンで水を飲んでいると隼人が起きてきた。

「起きてて大丈夫か?」

「…うん。昨日よりだいぶ楽になったから」

泣いていたことに気づかれたくなくて
私はうつむいたまま言った。

「まだ今日一日は寝てろよ」

隼人はそう言うとスーツの上着を着た。

「それじゃ、俺帰るよ」

カバンを手に取った隼人は、ふと何かを見て動きを止めた。

何だろうと思って隼人の視線を追った私は
テレビの横に置いてある、こんぺいとうの入ったビンを見つけた。

「まだ取ってあるんだな」

あのこんぺいとうを見て、隼人は何を思っただろう。

自分の気持ちを悟られてしまいそうで
私は何も言えなかった。


「萌…あのさ」

ためらうような声に顔を上げると
隼人の揺れる瞳が目の前にあった。

何か言いたそうな表情が心に引っかかる。

「何?」

「いや…何でもない」

隼人は何も言わなかった。

「お大事にな」

そう言って、昔のように頭を撫でてくれる隼人の手に
胸が苦しくなった。

「あ…隼人」

ドアを開けて出て行こうとする背中に
やっとのことで声をかけた。

「何?」

「ありがとう…」

「ああ」

隼人は優しく微笑むと帰っていった。


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