君とこんぺいとう
田代くんは休日に私を誘ってくれるようになった。

もともと同期で気兼ねない関係だっただけに
彼といるのは気が楽だし、楽しかった。

隼人に感じたようなトキメキや胸の高鳴りはなかったけれど
田代くんと穏やかな時間を過ごすうちに
こういう関係もありなのかもしれないと思うようになった。

彼は出かけると、いつも私を家まで送ってくれた。

マンションの前まで来ると
頬に軽くキスをするのが彼の別れ際の挨拶だった。

その日も送ってくれた田代くんは
私の頬にキスしようとしてふいに動きを止めた。

不思議に思って見上げた私は
彼の唇が重なるのを感じた。

「そんなに驚くなよ」

固まった私を見て田代くんは笑った。

「ご…ごめん。突然だったから」

「キスしていいかなんて、普通聞かないだろ?」

「そうだけど…」

思わず顔を赤くした私の頬を田代くんはそっと撫でた。

「嫌だった?」

「そんなことない…」

「じゃあ、ついでに小川の部屋に行きたい」

「え…?」

「ダメ…かな?」

不安そうに揺れる田代くんの瞳に
私は胸がぎゅっとなる。

いつも明るい田代くんに
そんな顔をさせてるのはまぎれもなく私だった。

私のハッキリしない態度が
彼を苦しめているんだ。

黙ったままの私を見て、田代くんは苦笑した。

「困らせてごめん。ダメならいいんだ。
言ってみたかっただけだから」

「…いいよ…」

「え…?」

私の言葉に彼は固まった。

「部屋に上がっていって」

私は彼の手を握った。


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