君とこんぺいとう
昼休みを終えて戻ると
里中が外出から帰ってきていた。

仕事中に視線を感じて顔を上げると
何か言いたげな彼の瞳とぶつかった。

(そんな目で見ないで…)

昔と同じ澄んだ瞳から目をそらせずにいると
里中のほうが目をそらした。

私は気持ちが暗くなるのを感じながらも
心のどこかでホッとした。

その日の午後、私は課長に急ぎの仕事を頼まれた。
午前中に里中と回った取引先から受けてきたものらしい。

松田さんと二人でやるようにと言われたものの
予定があって早く帰りたいと言う彼女の分も
私がやることになった。

パソコンに向かっていると
定時をすぎたあたりから、ぽつぽつ人が帰り始めた。

「小川さん、すみません~。全部お願いしちゃって」

帰り支度をした松田さんが甲高い声で近寄ってきた。

「これくらいなら一人でも大丈夫だから」

私がそう言うと、松田さんはにっこり笑った。

「ですよね。じゃ、お先に失礼しまーす」


(あんな風に人に頼んで帰れたら楽だろうな)

心の中でつぶやきつつ、私は黙々と仕事を続けた。

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