君とこんぺいとう
「田代くん、ごめんなさい」

会社帰りに田代くんを食事に誘った私は
自分の正直な気持ちを伝えた。

「やっぱり隼人じゃないとダメなの」

「分かってたよ」

田代くんは少しだけ寂しそうに笑った。

「それでも少しでも可能性があるなら
かけてみたかった」

「…どうして?」

「え?」

「どうしてそんなに私のことを…?」

田代くんは私の問いに
照れくさそうに前髪をかきあげて言った。

「小川は覚えてないかも知れないけど
入社式の日に、俺が落としたコンタクトレンズを
一緒に探してくれたろ?
一生懸命探してくれる姿がかわいくて
その時からいつの間にか小川だけを見てたんだ」

私も入社式の日のことは覚えていた。

みんなが部屋から移動しているときに
コンタクトを落とした田代くんが一人で探しているのに気がついて
私も手伝った。でもそれだけのことなのに…。

「入社式で緊張してた時に一緒に探してくれて
本当にうれしかったんだ。
見つけてくれた時の小川の笑顔が忘れられなかった。
でもだんだん笑顔を見せなくなった小川が心配で
俺が支えて守ってやりたいと思うようになった」

私をずっと見ていてくれた田代くんの言葉に
胸が熱くなるのを感じた。

「でも里中がうちの会社に来て
小川の笑顔がどんどん増えて予想外だったよ。
もっと前に気持ちを伝えておけばよかったな」

田代くんは苦笑しながら言った。

「田代くん…」

「だけど小川の気持ちは分かったから。
元の同期仲間に戻ることにするよ」

どこまでも優しい田代くんの言葉に
私は涙があふれてくるのを止められなかった。

「…ありがとう。ずっと見ていてくれて。
こんな私を好きになってくれて」

「泣くなよ。そんな顔見せられたら
諦められなくなる」

「…ごめん」

頬を伝う涙をぬぐうと私は無理やり笑顔を作った。

「ありがとう」

田代くんはうなずいて笑ってくれた。


< 133 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop