君とこんぺいとう
彼は私に小さな袋を手渡した。

「これ、何?」

「見りゃわかる」

私は袋の中身をのぞきこんで、あっと声をあげた。

「こんぺいとう…?」

「そ、取引先の近くの店で見つけてさ。
思わず買っちゃったんだ。
お前にやるよ。毎日残業してるからご褒美だ」

「また『頑張ったで賞』?」

何気なくそう言った私は
急に黙り込んだ里中を不思議に思って
顔を上げた。

里中は綺麗な目を
まんまるく見開いて私を見ていた。

「な…何?」

私は彼の様子に驚いて尋ねた。

「…いや。お前、覚えてたんだなと思って」

私は覚えていたことを知られてしまったことに動揺した。

「私、記憶力いいから…」

「そっか」

うれしそうに笑う里中に、また私は落ち着かない気持ちになる。

「お前、今日は何時頃帰れる?」

「もう少ししたら切り上げる予定」

「じゃ、何か食べて帰らないか?」

予期せぬ誘いに私は返事ができなかった。

「あと10分したら俺も出られるから」

里中はそう言うと自分のデスクに戻って行った。


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