君とこんぺいとう
「でもさっき田代に口説かれてただろ?」

一瞬何のことか分からず
首をかしげた私に里中は言った。

「聞こえてたんだ。
田代が「俺と付き合うか?」って聞いてたの」

里中が言っている内容が
ようやく理解できた私は笑った。

「田代くんはああいう人だから。
他の人にも言ってると思うけど」

「そうか?」

「私なんか誰も相手にしないってば」

私がそう言って苦笑すると
里中は真面目な顔で答えた。

「お前、『私なんか』って言うのやめろよ。
小川はもっと自分に自信を持ってもいいと思う」

「え…?」

聞き返した私の声が聞こえなかったかのように
里中は話題を変えた。

食事を終えて外に出ると、もう夜の11時過ぎていた。

「送ってく」

駅まで歩く道すがら里中は言った。

「大丈夫。まだ終電もあるし。一人で帰れるから」

そう言った私の足元は少しふらついていた。

「お前…あのカクテル1杯で酔った?」

里中は信じられないと言うように私を見た。

「分かんない…」

「やっぱり送ってく。
危なっかしいな。ほら、行くぞ」

ふらつく私の手を自然に握ると里中は歩きだした。。

並んで歩きながら里中を見上げた私は
その端正な顔立ちと男らしいアゴのラインが目に入って
一瞬見とれてしまった。

急に大人の男の雰囲気を感じて鼓動が速くなる。

里中は家まで送ってくれる間も
ずっと手を離そうとしなかった。

つながれたままの手のぬくもりに
後夜祭のダンスを思い出し、私は胸がせつなくなった。

その日、里中からもらった『頑張ったで賞』は
私の大切な宝物になった。

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