君とこんぺいとう
待ち合わせ場所にはもう里中が来ていた。

「ごめんっ。待たせちゃって」

走ってきた私を見て、里中は笑った。

「そんなに待ってないよ。俺もさっき来たとこ」

私は里中の笑顔にドキっとした。

高校時代を除いて、スーツ姿の彼しか見たことがなかった私には
グレーのTシャツに黒いパンツという私服姿はとても新鮮だった。

「小川の私服、久々に見た」

「そ…そうかもね」

「似合ってる」

あまりに見られて恥ずかしくなった私は里中に言った。

「水族館…行かない?」

「そうだな。行こうか」

里中はそう言うと私を促して歩き出した。

駅から少し歩いたところにある水族館は
親子連れやカップルでにぎわっていた。

そこはカツオとマグロのダイナミックな泳ぎが見られる
大きな水槽があることで有名な水族館だった。

私たちは色々な魚を見た後で
その大水槽の前に設けられたスペースに
しばらく座っていた。

「すごいよなぁ。
久々に来たけど水族館ていいよな」

里中は魚が泳ぐ姿を見ながら言った。

「私も久しぶりに来たけど、本当に楽しい」

私はこの空間を心から楽しんでいた。
こんなに楽しいと思ったのはいつ以来だろう。

「あ、里中、あの魚見て。顔がへこんでる!」

私は顔の片側が大きくへこんでいるマグロを見つけた。

「本当だ。きっと水槽にぶつかったんだ。
あ、あっちにも顔がへこんでるのがいるぞ」

「すごい勢いで泳いでるから、ぶつかったら痛いだろうな」


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