君とこんぺいとう
「俺も手伝うよ」

そう言うと彼は私の作業を手伝い始めた。

「部活、まだ終わってないんでしょ?」

「あっちは人手がいるし、俺がいなくても大丈夫だから。
小川一人にやらせてるのも申し訳ないし」

私はこの時、初めて里中の顔を意識して
ちゃんと見たような気がする。

少し茶色がかったサラサラの髪に二重のきれいな瞳。
背は私より少し高いくらいで
並ぶとちょうどいい感じに視線が合った。

「な、何でそんなにジッと見るんだよ。
俺の顔に何か付いてる?!」

私があまりに凝視していたせいか
里中はしどろもどろになった。

「手伝ってもらえると思ってなかったから驚いて。
みんな帰っちゃったから
一人でやろうと思ってたし」

私がそう言うと
彼は前髪をかきあげながら言った。

「みんな、ひどいよなぁ。
小川だけにやらせて帰るなんて。
お前も一人で全部やろうとか思わないで
部活の連中とか誰か呼べばいいのに」

私は金づちで釘を打ちながら言った。

「だって、私は部活があるわけじゃないから。
わざわざ部活で忙しい人を呼ぶのも
悪いと思って」

里中は私の手から金づちを奪った。
 
「危なっかしいな。
お前は絵の具でも塗ってろ。
ていうか、全部一人でやろうとするなよ。まったく」

ぶつぶつ言いながらも手伝ってくれる里中は頼もしかった。

その日以降、里中は週に何日か部活をさぼり
クラスの手伝いに来るようになった。

里中が来るようになると、
帰宅部メンバーの居残り率も高くなり
作業もどんどん進んだ。

(里中って不思議…。
みんなが彼のところに自然と集まってくる)

みんなに囲まれて作業する里中を
少し離れて眺めていると、ふと本人と目が合った。

「小川、ちょっとこっち手伝って」

突然里中に呼ばれて
私は彼のほうに向かった。

「何すればいいの?」

私が彼のそばに座ると
里中は釘を差し出した。

「これ、一本ずつ俺に渡して」

「は…?なんでわざわざ手渡し…」

「渡してもらったほうがやりやすい」

そういうと、里中は
有無を言わさず私を手伝わせた。

私は納得できないまま
里中に釘を一本ずつ渡した。

里中のそばにいる私に
周りのメンバーも自然と話しかけてきた。

気がつくと私は里中と一緒に
輪の中心にいた。

(私が端にいたから
仲間に入れようとしてくれたんだ…)

里中の何気ない気遣いに私の心は温かくなった。

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