君とこんぺいとう
土曜日、隼人は夕方早めにうちに来てくれた。

「早かったね」

「萠が話があるって言うから何事かと思って」

隼人は隣に座った私をのぞきこんだ。

「何かあった?最近、会社でも元気ないから気になってたんだ」

「隼人…」

心配してくれてたんだ。

「昼間病院に行ったんだ。
茜がまた不安定になってて、泣かれてさ」

茜さんの名前が出て、私はビクッとした。

「泣いてた?」

「ああ。最近よく泣くんだ。
もう自分には普通の生活は送れないって」

その言葉を聞いて、私は目の前が暗くなった。
まだ若くてやりたいこともたくさんあるはずの茜さん。
彼女は普通の生活すら送れない。
おしゃれしたり、友達と遊んだり、恋もできないんだ。

「萠?」

「あ、ごめん」

「何で泣きそうになってるの?」

「な、なってないっ」

私は焦って顔を背けた。

「萠、こっち向いて」

隼人の声に私は仕方なく涙をぬぐってから顔を向ける。

(田代くん、やっぱり隼人には相談できないよ)

「萠、話って何?」

私は膝のうえで手をぎゅっと握ると
隼人をまっすぐに見た。

「隼人、しばらく私、会えなくなる」

「会えないって?」

「あの、母が腰を痛めちゃって。
週末は手伝いに行かなきゃいけないから」

まずは距離を置くだけで私には精一杯。

とっさにかんがえた口実なのに
隼人は心配してくれた。

「お母さん、心配だな。
俺の方は大丈夫だから。実家に行ってあげて」

「う、うん。ありがとう」

私はぎこちない笑顔を浮かべた。




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