君とこんぺいとう
「行き先は?」

タクシー運転手さんに聞かれて我に返った私は
とっさに会社の住所を告げていた。

(何かしていないとおかしくなりそう…)

一人ぼっちの部屋でさっきの光景を思い出して泣くよりも
私は仕事に没頭することを選んだ。

会社についてエレベーターでフロアに上がると
数人が休日出勤で仕事をしていた。

いつものオフィスよりは静かで
でも一人ぼっちじゃない空間が私にはありがたかった。

「あれ、小川。お前も休日出勤?」

突然声をかけられて、思わずビクッと肩が震えた。

「…田代くん」

「何だよ、そんなに驚くことないだろ。こっちがびっくりする」

田代くんはそう言って自分の席に座った。

「田代くんも休日出勤してたんだね。知らなかった」

「予定外に仕事が長引いちゃってさ。最悪だよ。
小川も急ぎの仕事か何か?」

「う…うん。そんなとこ」

私はうつむいてパソコンを起動させる。

「そっか。お互い大変だな」

そう言ったきり仕事に没頭し始めた彼を見て
私も自分の仕事に集中した。

(いまは何も考えたくない)

病院で見た光景を振り払うように
私はキーボードをたたき続けた。
< 84 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop