君とこんぺいとう
「…どうして?」

私は驚いて田代くんを見た。

「いや、会社に来た時、様子が変だったし。
目が赤かった気がしたから」

(見られてたんだ…)

病院での出来事を思い出して、鼻の奥がツンとした。

「小川…?」

田代くんは心配そうに私をのぞきこんだ。

「ごめん…。分かっちゃったんだね…」

こぼれおちそうになる涙を必死にこらえて
私は田代くんに笑った。

「里中のことか?」

耐えきれなくなった私は黙ってうなずいた。

「そうか。そんな気がしてた」

田代くんは静かにそう言うと
私の涙が止まるまで何も聞かなかった。

「ごめん。泣くつもりなんてなかったのに」

ようやく落ち着いた私は彼に謝った。

「いや、謝ることないよ。
とりあえず食べよう。腹が減るとマイナス思考になる」

「…そうなの?」

「俺の持論だ」

田代くんは肉を焼いては私のお皿にのせてくれた。

食欲なんてなかったけれど
私は田代くんの持論を信じて食べることにした。

「うまいもの食べると元気になるだろ?ここの焼き肉、ホントにウマイんだ」

おいしそうに焼き肉を食べる田代くんにつられて、私もお肉をほおばった。

「本当だ。おいしいね」

「だろ?ほら、どんどん食べろ」

田代くんは私が泣いた理由を
それ以上は聞かなかった。




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