君とこんぺいとう
その日もいつものように残業をしてから
私は家に帰った。

隼人は結局一日外出していて
会社には戻ってこなかった。

顔を合わせずに済んだことに安心した半面
隼人に会えなかったことが無性に寂しくもあった。

私が複雑な気分のまま家に着くと
部屋の前に隼人がいた。

「隼人…」

隼人は少し緊張したような顔をしていた。

「おかえり」

寄りかかっていた壁から体をおこすと
隼人は私に言った。

「どうしても話したかったから待ってた」

私は病院でのことを思い出し
手をぎゅっと握りしめた。

「萠」

隼人はそう言うと私の頬に触れた。

びっくりするほど冷たい手に
私はハッとして彼を見た。

「いつからここにいたの?」

「6時くらいかな?
取引先から直帰してそのまま来たから」

「3時間もここに?…」

私は隼人の冷たい手を両手で包むと
部屋の鍵を開けた。

「…入って」

「ありがとう」

隼人はホッとしたように微笑んだ。

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