雨とバンビ。




「……夏蓮は、今でも好きなの? その人のこと」



今でも好きか、だなんて。


言うまでもない。



「……好きだよ。今でも」



こんなに胸が苦しいのに、これが恋じゃないだなんてあり得ない。



「バンビは梅雨だから、梅雨が来ると嫌でも思い出すの」



時折、あれは幻だったのかななんて思う。



あの艶やかな髪も、潤んだ瞳も、色っぽい声も。



白い手も、重ねた赤い唇も、絡めた舌も。



全部全部、幻?




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