鶴見の鳩
しばらく彼らは一円にビスケット

を取り巻いて、我先にとビスケッ

トをつついていた。何とかしてビ

スケットを食べようと苦心してい

る様子で、皆激しく首を動かして

いた。あるものは太い首を巧みに

使ってひっくり返してみたり、ま

たあるものは小さなくちばしを目

一杯開いてビスケットを砕こうと

したり。そんな光景を、私はどこ

か愉快な気分で眺めていた。

しかしここでも、あの黒一色の鳩

はやって来なかった。あの鳩は、

鳩なのに、群れることをしないの

か。私は焦燥感、期待感、──そ

ういった諸々の感情を視線に変え

て彼に投げかけた。

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