鶴見の鳩
不意に隣の外人が胡散臭そうな顔

をしているのに気付いた。

彼の視線に合わせて、自分の視線

を下に落とした。すると彼の革靴

の上に、一羽の鳩がちょこんと座

っていた。歩き疲れたと見えて、

冷たいコンクリートの上に突き出

た彼の革靴に鎮座していた。

外人は苛立ちを隠しきれず、苦虫

を口一杯に詰め込んだようなふく

れ面をしていた。かと言って邪険

に蹴り飛ばすことも出来ず、悶々

としている様子だった。

私はどうしようか思案した。そし

て、思いついて足元に落ちている

、その所々穴の開いたビスケット

を踏み潰した。ぐしゃっという音

をたて、それは一瞬にして煎じた

麦粒へと変わった。

するとすぐに、どういう訳かそれ

までポテトチップをついばんでい

た鳩たちが戻ってきて、砕けたビ

スケットをつつき始めた。それに

つられたのか、かの外人の靴に居

座っていた鳩も、靴から降りてそ

の輪に混じりビスケットをついば

みだした。思惑が見事当たった私

は、白髪の外人を見た。彼は鼻の

縮小に成功した禅智内供のように

晴れ晴れとした顔つきで、左手に

見える暗闇を望んでいた。
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