極上お姫様生活―2―【完】
あたしの言葉を無視したまま教室を出て行こうとする八木原君を、遥登くんが追いかける。その後に橘君と櫻田君が続いた。
「お前らは来んなよ、大勢で行っても仕方ねぇだろ」
はぁ、と溜め息をついた八木原君がくるり振り返る。勢いで落ちそうになったあたしは、小さく悲鳴を上げながら咄嗟に彼の首にしがみついた。
「斎が連れて行くなんて誰が決めたんだよ!このケダモノっ!」
遥斗くんがイーッと威嚇しながら、あたしを降ろそうとする。でも、残念ながら八木原君に勝てるほどの力はなく。
「邪魔すんなって、ほら、どけ」
まるで小さな子どもをあやす様にポンポンと遥斗君の頭を撫でた八木原君は、ふっと勝利の笑顔を浮かべて今度こそ教室を出た。
後ろから遥斗君の叫び声と、それをなだめる橘君の声が聞こえ、遠ざかっていく。
「……、」
しんと静まった廊下に、あたしの心臓の音だけが響いている気がした。顔、近い……。
八木原君をちらり盗み見てみる。歩く度、彼の切れ長の目にかかった前髪が踊るように揺れていた。
「あんま見んなよ」
一瞬だけあたしを見た八木原君が、すぐにまた目を逸らす。
見てたのバレてた……!!
「ご、っごめんなさい」
慌てて謝罪すると少しの間の後、八木原君がははっと声を出して笑う。あれ、怒ってない……?