極上お姫様生活―2―【完】
「なー、拗ねてないでこっち向けって」
退屈そうに机に頬杖をついた八木原君が、ベッドに座ったままのあたしに言葉を投げかけてくる。
先ほど用があると保健室を出て行った翼。気を遣ってくれたのかもしれないけど、そんなのもう遅い。
散々面白可笑しく話されて、今さら機嫌直せなんて言われても当然無理であって。
「嫌ですっ、あたしは怒ってるんですよ?」
ふいと顔を背けつつ、不満を口にする。視界の隅で八木原君が少し困ったように眉を下げたけど、あたしは構わず目を合わせようとしなかった。
遠くの方で誰かの笑い声がする。八木原君は、異様なほど沈黙した保健室に流れる気まずい空気を断ち切るようにすっと立ち上がった。
思わず目を向けてしまう。しかも逸らせない。
「な、何ですか……」
じりじりと近寄ってくる八木原君から逃げるようにベッドの端っこまで後ずさる。背中が壁にあたって、ビクリ身体を震わせてしまった。
八木原君が妖しく笑いながらベッドに手をつく。
―――ギシ、ギシ……ッ
「や、八木原君!ダメです、これ以上近づかないで下さい……!!」
スプリングが軋み、緊張に耐えられなくなったあたしは声を荒げて彼を拒否する。
「何でだよ」
ゆっくりではあるものの確実に距離を詰めていく八木原君。逃げられるはずがない事を、心のどこかで分かっていた。
あたし、期待してる―――。