年下のカノジョ~あの子は高校生~
「それって、その彼女は“運命の人”じゃなかったのよ」
 雑煮のお椀をみんなの前に配りながら、母さんが言う。


「運命って・・・・・・。
 母さんは随分ロマンチストだなぁ」

 お椀を受け取りながら母さんの顔を見ると、真剣そのものだった。

「あら?
 ロマンとかじゃなくて、本当にそういうものなのよ。
 特に人との出会いって言うのはね。
 正和にもそのうち分かる日が来るわよ」
 うふふっと、小さく笑う母さん。

「ふぅん」


―――そんなものかねぇ。

 大して気のない返事をして、雑煮を口に運ぶ。



「なら、母さん達は出会った時に何か感じたりした?」

「私は、お父さんを見た瞬間に、“この人とだったら穏やかな家庭が築けそうだわ”って思ったの。
 大学の通路ですれ違っただけで、お互い名前すらも知らなかったのに」
 当時のことを思い出したのか、お酒も飲んでいないのに、母さんは頬がほんのり赤くなった。


「へぇ、なら親父は?」

 話を振ると、親父は酒を飲む手を止めて、腕を組んでは思い出している。


「う~ん、そうだなぁ・・・・・・。
 俺の場合は母さんのような直感的なひらめきはなかったが、付き合っていくうちに母さんの隣にいることがあまりにも居心地がよくってな。
 一緒にいることが当たり前だと思うようになったよ」
 ここまで一息に言うと、照れ隠しのためか、グラスのビールをゴクゴクと飲む親父。


「感じ方は人それぞれみたいよ。
 何も“体に電流が走った”ということが運命の出会いというものでもないみたいだし。
 ねぇ」

 母さんの話に親父がうなづいている。



「なるほどね。
 この先運命の人に会うことが出来たら、その時は報告するよ。
 あっ、まだ雑煮ある?」


 お代わりの催促をすることで、俺はこの話を打ち切ることに成功した。


< 45 / 718 >

この作品をシェア

pagetop