桜の咲くころ
第1章
あぁ…また見ちゃったよ。

昔懐かしい頃の記憶。

最近たびたび夢に出てくる。

まるで「忘れるな」って言ってるよう。

アタシが中学生の頃、親の仕事の関係で知り合った男の子がいて、年も同じだったからすぐ打ち解けて仲良くなった。

違う中学だったから会う事も少なかったんだけど、アタシはコッソリその子の事が好きだった。

それがある日、ママから「入院したんですって」と聞かされてアタシは慌てて市内の総合病院に走って行って。

あの日は3月の終わりなのに肌寒くって、桜の蕾と同じようにキュッと体を縮ませて足早に病院を目指していた。

それから何回かお見舞いに行ったりしてたけど、しばらくして転院が決まって、それ以来アタシは会いに行くことが出来なくなった。

もう15年も前の出来事なのに、その日の事は忘れようとしても記憶がそれを阻止する。

懐かしい懐かしい、桜の花びらがチラチラ舞うような、淡く綺麗な思い出。

今はどこにいるのか、何をしてるのか、何も知らない。

親の反応からして、たぶん手術は成功したんだろうと子供ながらに思っていた。

社交辞令という言葉を知ったのも、その頃だ。

交わした約束が果たされる事もなく消えていったんだから。

< 1 / 206 >

この作品をシェア

pagetop