桜の咲くころ
『マツヤマ サトル ノ ツマ ?』

名前を聞いた瞬間、身体が強張るのが分かった。

久しぶりに耳にする名前は、まだあたしの中で失われてない恐怖を思い出させた。

シンがあたしの前に出る。

「何か用ですか?」

言葉の出ないあたしに代わって、シンが冷たくそう言った。

「あ、あの・・・お話が・・・」

何を焦っているのだろうか。

その人は、周りを気にしながらソワソワして落ち着かない。

こんな所でブサリ・・・なんてタイプにも見えないし、とシンの背中から見て思った。

「荷物あるんで、良かったら中へどうぞ?」

あたしの言葉に、驚いた顔をして振り返る。

そんな不安げなシンに、あたしは「大丈夫だよ」と言って、その人を中へ招きいれた。

そもそも、あの男が結婚していたなんて。

いつ結婚したのか。

この会わない間に?

まさか、ずっと前から?




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