桜の咲くころ
「こんなものしかありませんが――」

そう言ってコーヒーを差し出す。

最近買ったばかりのリビングのテーブルの上にそれを置くと、あたしはそのまま床に座り、彼女を見上げた。

「す、すみません・・・」

サトルの妻と名乗ったこの人は、申し訳ないといった表情で俯いている。

シンは、そんなあたしたちをベットの隅に腰掛けて眺めていた。

「あの・・・失礼ですが・・・」

そう前置きして、チラッとシンを見てからやっと、その人は口を開いた。

「主人と、お付き合いされてた・・・んですよね?」

「・・・・・・」

お付き合い。

いえ、身体だけですけど。

なんて言えるはずもなく、あたしは「あぁ・・・」と曖昧に濁した。

「でも、なぜご存知なんですか?」

ソファーに座る、彼女の目から反らさないよう問いかける。

「実は、先日事件がありまして・・・それで何気なく主人の手帳を開いたら・・・浮気の事が細かく書かれてまして・・・それでその・・・」

「私ならもう、お会いしてませんよ」

触れたら壊れてしまいそうなその人に、出来るだけ優しく言う。

「そ、それは、分かってるんです・・・書いてありましたから・・・。それで、その・・・変わった事とか、困る事はありませんでしたか?大丈夫ですか?」

眉を下げ、心から心配してるような眼差しをあたしに向ける。

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