桜の咲くころ
「煙草吸ってくる」

そう言って、煙草とライターを掴んでベランダに向かう。

部屋に匂いがつくのが嫌だから、ほとんど外で吸うのだけれど。

ベランダに流れる冷たい秋風が、アルコールで火照った身体に丁度よかった。

カチッ・・・。

フィルターを通った煙を吸い込む。

煙が身体に入った時、ものすごいスピードで酔いが回るのを感じた。

「な・・・何だ?」

転んでしまわないように、手すりを持つ手に力をこめる。

煙草って、そんな作用あったっけー?

今までにない感覚。

ヤバイ、このまま吸ってたら・・・確実に吐くな・・・。

シンの店で・・・サトルと会った日に飲んだ甘ったるいカクテルの時よりも酔ってる自覚があった。

ここで潰れる訳にはいかないし。

後片付けもしなきゃだし、シャワーも浴びなきゃだし・・・。

あれやこれやと用事を廻らして、しっかりしなきゃと奮い立たせる。

「お客さーん。煙草吸ったら悪酔いしますよー」

リビングのソファーから、あたしに向けられる楽しそうな声。

知ってるなら先に言ってよ・・・。

「大丈夫でぇーす」

わざとおどけて返して、部屋に戻った。

案の定ふら付く足元をシンに悟られまいとして、壁や家具に伝って歩く。

絶対、酔ったのがバレたら「弱いくせに」とか言って馬鹿にされるからね。

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