桜の咲くころ
第4章
久しぶりに夢を見た。
遠い遠い昔の記憶――。
なだらかな山の斜面に沿って作られた公園。
アスレチックの大型遊具が遠くに見える。
広く敷き詰められた芝生にジーンズを履いた髪の長い女の子がベタリと座り込んで大きくアクビをした。
あ・・・あたしだ。
夢の中のあたしは、クルリと横を向いて、短髪のタレ目の男の子の足をパシッと叩く。
「いってー。何すんだよ」
「せっかく遊びに来たのに、つまらなさそうな顔してるから」
「せっかくって、週一のピアノで来てるだけじゃん」
「じゃぁいいよ、帰るから」
そう言って、大きな鍵盤の絵が描かれたレッスンバックを手に立ち上がる。
中学生になりたての頃、隣町のピアノ教室に通っていた。
初めは苦痛でしかなかったそれも、帰りに寄り道出来る事を知ってから楽しく思えるようになった。
「はぁ?ちょっと待てよ」
カバンの隅を掴む少年。
「待たない」
「ゴメンって、帰んなよ」
グイッと引っ張られたあたしを引き止める感覚に心が揺れる。
帰りたかった訳じゃない。
傍にいたいから、わざと引き止めて貰うような素振りをしただけ。
気持ちを正直に話すには、まだ幼すぎた。