桜の咲くころ
ドン、ガチャ
背中に走る鈍い痛みと耳に響く効果音。
人とぶつかった衝撃で思わずカゴを床に落としてしまう。
あちゃー、恥ずかしい。
あたしは慌ててカゴを拾うと「すみませんでした」と頭を深く下げる。
視線の先に映ったのは、女もののスニーカーで。
とりあえず、怖いオジサンじゃなくて良かった、なんて考えてると「大丈夫ですか?」とカワイイ声が頭に降ってきた。
「大丈夫です。本当にゴメンナサイ」
頭を下げたまま、もう一度深くお辞儀をして顔を上げる。
あら…かわいい。
あたしがぶつかった人間は、フワフワのショートヘアにウルウルの瞳。
リネン地のロングワンピースを着て、見るからに「ガーデニングやお菓子作りが趣味です」的なほんわかした感じの子だった。
子…?
うん、私よりは若いわね。
にじゅう…よん、ご…位?
あたしは平謝りをしながらも、自分にはないイメージの持ち主を少し羨ましく感じて眺めていた。