桜の咲くころ
 

初めて入った大きな病院。

沢山の人間が行き来する玄関で、あたしは息を整える。

勢いで走ってきたけど、病室も何も分からない。

受付から見える広い芝生を見つめ、酸欠になった頭で必死に考える。

「すみません、知り合いの男の子が入院してるんです。病室、教えてください」

お腹の病気だから内科だろう、と診察室の入り口から出てきた白衣を着た若い医師に声をかけた。

勇気を振り絞って見上げる。

「僕は・・・研修医だから・・・詳しくないけど、誰?」

「シン・・・渡部 心 」

「あぁ、最近入った子だね。3階の302号だよ。6人部屋の一番奥」

「ありがとうございますっ!」

深くお辞儀をして、階段を駆け上がる。




「・・・シン?」

「・・・ミカコ!?何で?」

久しぶりに見る姿は、腕に点滴の管が刺さってて「あぁ、本当に病人なんだ」って事をあたしに思い知らせる。

「お母さんに聞いて・・・」

「そっか」

「・・・炭酸爆弾」

「え?」

「炭酸爆弾にはならないよね?」

「は?」

子供の、ほんの些細なバカ話。

炭酸で膨れたお腹が破裂して内臓が飛び散る。



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