桜の咲くころ
その病院なら知ってる・・・。

重病の人や大きな手術をするような人が入院してる病院だ。

そんな所に転院させるなんて・・・もしかしたら想像してるよりも病状は酷いんじゃないかと不安になる。

「手術がおわって退院したら、一緒にメシ食いに行こうや」

揃えた膝の上で不安に震える拳に、シンが手を添えて言った。

「うん、いいよ」

あたしは、上手に声が出てるだろうか。

泣きそうな声を出してないだろうか。

「ミカコ、何がいい?」

「アタシ・・・ラーメンがいい」

「らーめん・・・いいよ、行こう」

何で口から出たメニューがラーメンだったのか。

回らない頭に浮かんだのが、美味しそうに湯気を揺らす、シンのお母さんが作ってくれたラーメンで。

「約束ね」

「うん、絶対」

堅く約束をして――

その数日後、あたしが知らないうちにシンは病院からいなくなっていた・・・・・・。

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