桜の咲くころ

記憶





肌寒さを感じて、ゆっくりと目を開ける。

はだけてしまった布団を、隣で眠るシンにそっとかけた。

あたしは、引き出しから大きめのTシャツを出して頭からかぶる。

・・・ずっと忘れていた記憶。

シンと過ごした、少ない記憶。

大きな病院に移ったのは、ねじれ方と、その位置が複雑だったからと大人になって知った。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して口に含む。

冷たく冷やされた水が、染み渡るように胃に流れていくのを感じた。

机の上に残されたフライパンとグラス。

空になったボトルが、心配そうに首を傾げてこちらを向いている。

あの頃から、シンの事が大好きで。

どこが好きなの?って聞かれても、答えられない位全部が好きだった。

あの頃より低くなった声。

あの頃より、確実に伸びた身長。

あたしを包む手の平は、細いけれど、節ばった大きな手の平に変わっていた。

会わなかった時の長さを・・・改めて実感する。




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