桜の咲くころ
失う事が怖かった。

また、あの暗闇に投げ込まれるのが怖かった。

会わなければ、あの日、あのスーパーなんかに行かなければ運命は変わっていたのかな。

目の前にシンが現れて、真っ暗な闇からあたしを救い出してくれた。

だから、期待してしまう。

だから、また闇に落ちるのが怖くなる。

幸せでいる時間が・・・

その時間が長くなるほど、あたしは一人不安と戦わなければならない。

・・・どうしたらいい?

・・・目の前から突然いなくなる事に脅えなくするには。

――そう。

・・・・・・自分から逃げ出せばいい。

現実から逃げてばかりの人生だったから、最後まで逃げてしまっても今さらバチなんてあたらないでしょ?

だから・・・。

シンとは、もう会わない――。




買ったばかりの炊飯器。

袋に詰まったままのお米。

布団で寝息を立てる愛しい姿に、

あたしは手紙を残して、部屋を出た。
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