桜の咲くころ
「じゃ、ご飯行きましょ!イタリアンの安い店があるんですよ!!」

たまには愚痴聞いてくださいよ、と拗ねた表情を作るナナちゃん。

かわいいなぁ、なんてオバサンみたいな事を思いながら「いいよ」と返事する。

「着替えて、受付に集合ですからね~」

嬉しそうに目を輝かせて、彼女は足早に去っていく。

たまには、人と夕食を摂るのもいいかもね。

帰っても、パンとヨーグルトしかないし。

白衣のボタンを外しながら、医局の奥にある更衣室へとあたしも足を急がせた。



化粧ポーチをとりだして、軽くファンデーションを塗りなおす。

口紅もほとんどはげてしまってる。

2月の初めに出たばかりの新色の口紅を、鏡を見ながら丁寧に引き直した。

その視界の隅で光る携帯のランプ。

あ、着信だ。

ディスプレーを開いたら、知らない番号が「早く出ろ」と言わんばかりにチカチカと点滅を繰り返していた。

「・・・もしもし?」

「・・・・・・」

「もしもーし?」

「・・・ミカコ?」

その、あたしの名を呼ぶ声を・・・あたしは知っていた。

携帯を握る手に、ジワリと嫌な汗が滲み出る。

「・・・俺だけど」



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