桜の咲くころ
「ミカコは、最後に俺を選ぶって分かってたよ。一時の気の迷いだったんだろう?」

・・・何て答えたらいいの?

否定する?

どうしたらいい?

「このままミカコに張り付いたままなら、あのバーテン、どうにかしないとなって思ってたんだ。でも、あの男、尻尾巻いて出て行きやがった。大丈夫、もうあいつは、君の傍にいないから」

「・・・どういうこと?」

「マンションにも、病院にも近付いてないって事。転々と場所を変えては、そこから出勤してるよ。俺は、ずーっと見てるから」

あまりの衝撃に、悲鳴をあげそうだった。

「だから、安心して俺の所に戻ってきていいんだよ?」

「・・・あんたの・・・サトルの所には戻らないよ」

「・・・・・・?」

「サトルを責めずに耐える、奥さんが可哀相だから。あの人を裏切る事は出来ない」

「・・・じゃぁ、離婚するよ。簡単だ」

「・・・そんな事、望んでない!!なんで、奥さんを見てあげないの」

恐怖に暴れ狂う鼓動が、更に勢いを増していく。

「・・・だって、あれは俺に従う犬だから」

・・・この男には、何を言っても無駄だと思った。

・・・完全に、狂ってると思った。

あたしは・・・そんな男の扱い方を・・・知らない。
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