桜の咲くころ
『何か困った事があったら連絡して下さい』

そう言って差し出した携帯の番号。

念の為に登録しておいた事を思い出す。

・・・奥さんに言ってどうなる?

彼女が助けてくれるとでも?

彼女に何ができる?

でも――それでも・・・今、あたしの状況を話せる相手は彼女しかいなかった。

この時間じゃ・・・サトルも家に戻ってるか。

いや、どこかであたしの事を見張ってるかもしれない。

これは、一つの賭けだった。

震える手で番号を呼び出し発信ボタンを押す。

1回・・・2回・・・

コール音を目を閉じて聞き、彼女が出てくれるのを祈った。

「・・・もしもし?」

もうダメかと諦めようとした時、あの遠慮がちな声が飛び込んできた。

「・・・夜分にすみません。依然、お会いしたミカコです・・・」

受話器の向こうで息を飲む音が聞こえた。

「な、何かあったんですか!?」

「・・・ご主人は、ご在宅ですか?」

「いえっ・・・最近は全然家に寄り付きません・・・」

「そうですか・・・」

サトルの話とも辻褄が合う。

あたしやシンを見張るのに忙しく、家に戻っていないのだろう。

「あの・・・何か」

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