桜の咲くころ

ハーブティー

翌朝、仮眠室から出たあたしを前田先生が出迎えた。

「ありゃ、ミカコ先生、美人が台無しだよ?」

犬のキャラクターが描かれたマグカップにコーヒーを注ぐ手が止まる。

・・・そんなに酷い顔してます?

「あまり、寝てないんです」

無理矢理笑顔を作ってみた。

徹夜なんて、当直の事を考えたらザラなのに。

「何か・・・すごく疲れてるように見えるけど。恋わずらい?」

いつものように冗談めかしてかけられる言葉。

「・・・まぁ、そんな所です」

作り笑顔のあたしは、適当に流す事しか出来ない。

「・・・点滴して帰る?」

丁度、輸液あるよ?と、電解質やらアミノ酸やらが溶け込んだ黄色い輸液パックを手際よくセットしていく」

「はい、ここに座ってー。腕も出してね。僕が触ったらセクハラって言われそうだから」

前田先生は、勤めて明るく言っている気がした。

上司に気を使わせてしまったと、心が少し痛んだ。

前田先生のズッシリとした存在感に安心感を感じる。

点滴の針が刺さった左腕を伸ばし、あたしは自分の席に顔を埋める。

ここでなら、先生がいてくれる間だけでも眠れそうな気がした。

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