桜の咲くころ
何だそれ、と分身が頭の中で喚く。

「だから、付き合うとか、好きとか有り得ませんから」

「・・・・・・あぁ、そう、なんだ・・・」

「重い買い物する時とか、出不精の旦那に代わって買い物に付き合ってもらう事もありますけどね。それに、あたしが実家に入り込んだから気を使って出て行ってしまって・・・」

はぁ・・・、と、まるで他人事を聞くかのように上の空で言葉を拾っていく。

「ミカコさんの話は、昔から聞かされてたんですよ。彼女作らないのー?ってあまりにもしつこく私が言うから『決めた人がいるからいらない』って。もー、硬派なんだかロマンチストなんだか。初めてスーパーでミカコさんを見かけた日なんて、すっごい動揺してて「嘘だろ?」って何度も赤い顔して言ってました」

ふふっ、と優しい笑いを挟みながらモモカは次々に言葉を紡ぎ出す。

「だから、応援してるんです。ミカコさんの事、誰よりも大切に思ってるって知ってますから。お二人には幸せになって欲しいんです。シン君、今・・・辛い顔しか見せませんよ。元気、ないですよ?」

ボタボタと、大きな涙が頬を伝って落ちる。

どうしようもない現実が・・・その願いは不可能だと煽った。

シンがあたしを想う気持ちなんて知ってる。

いつも抱きしめてくれた腕が・・・温かい胸が溢れるくらい伝えてきたから・・・。

「・・・あたしが逃げたんです。不安に負けたんです。でも、今は・・・そのおかげでシンを守る事が出来ています。あたしは、これでいいんだと思ってます」

ぽつり、ぽつりと吐き出すあたしの言葉を、モモカは理解し難いという顔をして静かに耳を傾けている。
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