桜の咲くころ
静まり返った自分の部屋。
一つの決意を持って、あたしは携帯の発信ボタンを押す。
「・・・ミカコ?」
「・・・・・・」
「やっと、分かってくれたんだ。お前はやっぱり利口だな」
受話器越しの鼻で笑う言い方に吐き気がする。
この男に、一生振り回されるのは沢山だ。
大丈夫、あたしは弱くない――。
「サトル・・・。これは、あたしからの警告だと思って聞いて・・・。これ以上、あたしや周りの人間に付きまとっても、どんどんサトルを嫌いになるばかりで戻る事はないよ。ねぇ、証拠がなくても・・・警察に助けを求める事出来るの知らない?」
「・・・・・・」
「サトルは・・・愛し方が不器用なんだよ。もっと、自分を、自分の周りの人間を思いやれば違う生き方が出来たのにね・・・。あたしもサトルも、自分ばかりで相手を傷つけて・・・結局、自分が一番心を痛めてる。おかしな話だよね」
「・・・・・・愛し方が分かってれば、苦労なんてしないよ」
「・・・・・・」
「愛なんて必要ない。愛なんて、くだらない。結局、そんな形のないものは虚像にしか過ぎなくて、時間とともに消えていくじゃないか――」
吐き捨てるように、そう言った。
話しても無駄なのは分かってる。
でも、これ以上苦しむ必要がどこにある?
あたしも、サトルも、奥さんも。
「・・・消えてなんかいかない」
「嘘だ」
「・・・嘘じゃない」