桜の咲くころ
『突然、不躾な事をしてすみません。

長年愛用していましたが、最近、使い勝手が悪くなってしまいました。

中古で申し訳ありませんが、貴女だったら大切にしてくれると思い、お送りした次第です。

P.S 不要でしたら、捨てていただいて構いません

  
Bar,Piccoro ; S.Naganuma 』


丁寧な文字。

傍らから手紙を覗き込んでいた白石さんも首を捻る。

「クリスタルワゴンって箱に書いてあるし、ピッコロで使ってた物じゃない?」

「・・・ぽいですね」

「クリスタルって高いんだろ?」

「・・・えぇ」

「クリスタルで出来たワゴンとか!?」

「え、それはないんじゃ・・・」

だいたい、高価な割れ物のクリスタルを、こんなダンボールに梱包して売られてるとは思えない。

「たぶん、普通のワゴンじゃないですかね?」

あたしは、ダンボールを見つめながら言う。

「そうだなぁ・・・かなり重いからね、物はいいと思うよ」

まるで、家具屋の店員のような口調で言って、ポンポンと箱を叩く。

「もし、組み立てとかだったら、呼んでいいからね。あと、床に傷が入ったらいけないから敷物ある?」

細長いそれを両手で持ち上げ、ずるずると重そうに引きずりながら玄関に敷いた古いラグの上に移動させた。

「高価でも、こんなにデカかったら困っちゃうな」

「・・・ですね」

あたし達は、顔を見合わせて笑う。

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