桜の咲くころ
「き・・・キャ・・・」

声が・・・出ない。

あぁ、前にもこんな事あったっけ。

いきなり玄関の扉が開いて、あたしは声が出なくて頭を抱えて小さくしゃがみ込んで・・・。

あの時は、誰が立ってたんだっけ・・・?

腰が抜けて、身を守るように両手をかざす。

爆弾だと、思った。

もう、ダメだと力いっぱい目を瞑る。

「ご、ゴメン、俺」

ゆっくり目を開ける。

身を縮めたあたしの視界が捕らえたのは、ダンボールの箱。

そして、そこから伸びる履きこんだジーンズ。

内側から箱の縁を掴む、節ばった手の平。

そして、最後に飛び込んできた、愛しい人・・・。

「な・・・なんでぇ・・・?」

力の抜けたあたしは、理解できないこの状況に呆然とするしかできない。

「お届け物です」

そう言って、彼は無邪気に笑った。

「は・・・意味わかんない・・・」

溢れ出る涙と一緒にこみ上げてくる笑い。

オーナー、使い物にならないって、物じゃなくてシンの事だったの?

笑いのセンス、ありすぎだよ。

「シン・・・シン・・・ッ。会いたかったよぉ・・・」

箱の中に体操座りしてるシンを、あたしは泣きながら精一杯抱きしめた。




< 160 / 206 >

この作品をシェア

pagetop