桜の咲くころ

約束

胸の、一番奥のさらに奥。

飛び出してこないように必死で閉じ込めた本当の気持ち。

会いたくて・・・本当は会いたくてたまらなかった。

自分で突き放しておいて、それでも本当は会いたくて仕方なかった。

抱きしめた体は、物凄く冷たくて・・・

あたしの温もりを全部移してしまいたいと思った。

「・・・モモカに聞いた」

あたしの耳元で響く、低い声。

「意味、全然分かんないから」

「・・・・・・ごめん」

「俺の気持ちも考えないで勝手なことばっかり言いやがって・・・」

「・・・ごめん」

「大丈夫だなんて、強がってばっかじゃん」

あたしの痩せてしまった頬にそっと手を当てる。

「ま、大体の事は想像できたよ。だからこうやって荷物になった。まさか、オーナーが手紙つけてるなんて思わなかったけど」

「・・・店から入ってたの?」

「そ。狭くて厚着できないし、白石のオッサンは窓全開で走りやがるし。お前はお前でさっさと開けないし。風邪引きそうだったから、脱出用のカッターで出てきた」

「・・・でも、何でダンボール?」

身を縮めて息を潜めた姿を想像して笑いがこぼれる。

「・・・見張られてるの、知ってたから」

「・・・そう、なんだ」

知ってて、わざとあたしから遠のいた。

「守るって言ったろ?」

近くで砦を作る事だけが守ることじゃない。

敵を知って、その最善の策を練ることも必要なんだ、と偉そうに付け加えた。
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