桜の咲くころ
第6章
目まぐるしく人が動く、いつもの職場。
雑談なんてする暇もなく、テンポ良く診察を繰り返していく。
仕事が終わる頃、シンが迎えに来ると言っていた。
午後になっても一向に減らない患者たち。
携帯もロッカーだから、なるべく早く仕事を片付けて外に出なくちゃ。
「お疲れ様でしたー」
最後の患者が診察室から出て行くと、ナナちゃんが元気良く振り返る。
今日の担当看護婦はナナちゃんだ。
テキパキと仕事を片付けていく彼女が合い方で良かった、と、その笑顔を見て思う。
「先生、今日、焦ってません?」
「ん、どうして?」
「なんとなく、いつもと違う気がします」
「焦ってるよー、待ち合わせしてるから」
「え、デートですか?」
「違うよ、ちょっと行くところがあって」
「ふーん、そうなんだ」
書き終えたカルテの山をナナちゃんに手渡して「残念でしたー」と意地悪く言ってみせる。
「あ、ミカコ先生?」
トントン、とカルテを机に落として揃えながら、ナナちゃんがクルリと振り返る。