桜の咲くころ
逃避
どの道を走って帰って来たのか分からない。
部屋にたどり着いたあたしは、ボサボサに乱れた髪に手をやりながらその場にしゃがみ込んだ。
逃げる事、なかったのに。
何であたしが逃げなきゃいけなかったんだろ。
次第にクリアになっていく頭の中で、自分の行動を振り返る。
もう会えないかも知れないのに。
何で話をしなかった?
シンの今を聞く勇気がなかった?
好きだったから…知りたくなかった。
あたしの生きる意味を…失いそうで怖かったんだ…。
モモカの余裕じみた笑顔が、頭の中でグルグル回る。
消し去ろうと、思い切り目を瞑ったのに、瞼の裏側にもしっかり焼きついていて。
あの女と…あんな家庭的な雰囲気の女が好きなんだ…。
あたしとは全然違う。
肉すらまともに探し出せないあたしと違って、あの子はきっと…。
自分の自信みたいなものが、シュルシュルと静かな音を立てて萎んでいった。
あたしは、あんな風にはなれない。