桜の咲くころ
「カンパーイ!!」

二人の声がリビングに響く。

久しぶりにグラスが並べられたテーブル。

こうやってみると、あたしの部屋には不自然のように見える。

いつか、この光景が自然になる時が来るのかなーなんて思って自然と笑みがこぼれた。

「ん、やっぱ旨い」

大きな唐揚げを口いっぱいに頬張りながらシンが幸せそうな顔で笑う。

オレンジ色の間接照明の中、唐揚げは光を集めるようにギラギラと光っていた。

食欲が落ちているあたしにとっては、見てるだけでお腹がいっぱいになってしまう。

「一つあげるよ」

そう言って、箸で摘んだ唐揚げをシンのゴハンの上にポンっと投げ込んだ。

白い泡が平べったくなったグラスを手にとり、グイッと喉に流し込む。

苦い味が口に広がり、それは早いスピードで喉から胃に落ちていく。

「ゆっくり飲めばー」と心配そうに眉をひそめるシンの顔を見るのも、何だか嬉しく思えた。



< 172 / 206 >

この作品をシェア

pagetop