桜の咲くころ
「そういえばさ、ミカコは何で医者になろうと思ったの?」

口にテンポ良く運ぶ箸の動きを止めてシンが言う。

あまりの突然な質問にグラスを持つ手がピクリと震えた。

そんなあたしの仕草に気付く様子もなく、シンは屈託のない表情を見せる。

シンに会うためだよ・・・・・・

なんて、恥ずかしくて言える訳ないじゃん。

「なりたかったからだよ」

口から飛び出そうになる気持ちを堪えて短く答える。

それに対して、「ふーん、そっか」と呟くと「頭、良かったしね」と付け加える。

頭が飛びぬけて良かった訳ではない。

上位の成績を取り続ける事で、シンのお母さんに信用され、家庭教師をお願いされる事が嬉しかったから。

だからあたしはシンの苦手教科ばっかり勉強して頑張ったんだよ。

本当は、社会とか体育とか苦手な教科もいっぱいあった。

嫌いな数学も、シンのおかげで得意になったと言ってもいいくらいなんだよ。

あたしは昔から、シンの事が中心に回ってる。

「そういう自分は、保育士になりたかったんじゃなかったっけ?」

いつか見た夢の記憶を思い出す。

「あぁ、それね」

そう照れたように笑いながら頭をかいて、シンは冷えたから揚げに視線を落とした。

「保育士、免許は取ったよ。ミカコがピアノも教えててくれたし。楽勝だった」

「・・・・・・じゃぁ、何で?」

保育士の免許をとっても、就職がなかなか見つからないのは知っていた。

公立なんて、倍率はシャレにならない位高いみたいだし。

「・・・嫌だったんだよね」

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