桜の咲くころ
「ミーカーコセンセ・・・」
医局の奥にある喫煙室。
北風が通り抜ける中庭を眺めながら、煙草を唇に挟んだところで声をかけられた。
「・・・何ですか、前田先生」
ガックリと肩を落として、淋しそうに中に入ってくる。
言いたい事は、何となく分かる気がした。
「今日の水炊き、僕も行きたかったなぁ・・・」
やっぱり!!
「言うと思いました」
クスッと笑みをこぼすと、今度は拗ねた顔を作ってあたしを見る。
「年齢制限なんて、酷いよね。連れてってよ、僕も」
「ダメですよ!ナナちゃんに怒られちゃいますから。我慢してください」
子供を諭すように大きな背中をポンポンと叩く。
唇を突き出して拗ねているオヤジは、白衣のポケットからシワシワの煙草の包みを取り出すと中を覗き込んだ。
「ある意味、パワハラだよねー」
太い指先で包みから煙草を引っ張り出すと、あたしを見て言う。
「ナナちゃん、怖いですからね」
同調しながら、あたしは笑って先生の笑いジワを眺めた。